【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
そんなことを考えていたら「ピアノ弾くの?」と聞いたことのない声がした。

顔をあげると、やっぱり知らない人……。


「いえ、そういうわけじゃ……」

「そうなんだ!その制服って星津学園のだよね?」

「あぁ……はい」

「へぇー。俺、深沢高校の1年。君何年生?」

「えっと……」

「そんな困った顔しないでよ!ねぇよかったらさ、LINE教えてよ」

「はい、スト―ップ」


わ。と声が出た。


後ろから伸びてきた両腕に、抱きしめられたかと思えば、そのまま一歩後ろへと引っ張られてしまう。


私の背中がトン、とかたい胸板に当たる。


「……回収ー」


その声と雰囲気は、大賀君以外ありえない。


ドキドキと心臓は暴れている。鼻先をかすめる、いい匂いさえ、いまは危うい。


かぁっと熱くなった私の頬を、きっと目の前の知らない男子も……見ている。


「……離して、はずかしいよ」


「そんな小さい声、俺には聞こえない」



すぐ後ろから、体を伝って来るその声は、悪戯っぽさ全開。


「俺の彼女なんだけど」


挑発的。にこやかに言っている。そんな声だ。


バツの悪そうな顔をして去っていく男子の後ろ姿に「バァカ」って言ってのけた、大賀君。



< 34 / 206 >

この作品をシェア

pagetop