【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
体を離されて緊張が解けるのと同時に、ふっと笑いがこみ上げた。


「何笑ってんだよ?」


「だって……大賀君子供っぽい……」


今まで見てきた大賀君のイメージには、なかった。


「はぁー?もとはと言えば、葉由がナンパされるからだろ」

「ナンパ……?」

「って今更かよ」


今度はプっと大賀君が吹き出した。


「葉由って笑うと可愛いね。俺、結構その顔好きだよ」


ふにゃっとした笑みに、胸が高鳴る。


そんな私の隣で、大賀君は目の前の鍵盤を指さした。


「葉由ってピアノ弾くの?」


「ううん」


「そう」


「大賀君、もしかして弾ける……?」


「うん。何がいい?」


大賀君は、右の親指をドの位置にふわりと置いた。
そしてリクエストを待っているみたいに、私を見ている。


何の曲があるんだっけ……?


「えっと……」


曲名が思いつかない私に、大賀君はポロンと音を奏で始めた。


まるでピアノのためにあるような、大きくて綺麗な手は、弧を描くように白黒の鍵盤を弾む。

電子音は、不思議なほど丸みを帯びて、優しく、軽やかに舞う。



「わぁ……すごい」


滑らかで優しい指の動き。
電子を忘れさせる繊細な音色。


目と耳両方で惚れてしまう。


……この曲ってなんだっけ?
有名な曲……。


あぁ、そうだ。たしか、「ラ・カンパネラ……?」



「よく知ってんね」


ぱたっと弾くのをやめて、大賀君は目線を私に向けた。


「葉由……この曲弾ける?」



その問いに、フルフルと首を横に振る。



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