【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
「そっか」

そう呟いた彼の手はあっさりと鍵盤から離れてしまった。


「帰ろ?」


柔らかな微笑をふっと陰らせたのを、私は見逃さなかった。

さらにその横顔を、私は不安げに見つめすぎたのかもしれない。

だから大賀君は「あぁ、ごめん」と言ってへらっと笑った。


そして彼は遠くに目をやって、懐かしそうにつぶやいた。


「小学生の時に、友達と教室にあるキーボードで、よくこの曲を連弾したんだよね。ちょっと思い出してた」


「へぇ……。なんか素敵だね、そういうの。大賀君って、ピアノもギターも歌もできるなんて、すごいんだね」


私は、褒めたつもりだったのに。
しぃん……そう、音がしそうだった。


見上げた大賀君の表情に、ドキッとした。


「……俺にはもう、音楽しかないからね」


寂しそうな笑顔は、泣いているみたいに、見えた。


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