【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
建物の正面にあたる壁。私はぽつんと見上げる。


まるで、不良が違法に描いた落書きみたいな、ショッキングピンクと黒色の文字、【Candy Rain】。
余白を惜しむことなく描かれている。


直感的に、ここは”悪いところ”。



扉に両手をのばす。ずしっときた重みを、押し返す。
わずかに開いたその隙間から、迫力あるサウンドが流れ出た。


鼓膜を震わすボーカルの歌声。
気持ちよさそうなその声を、盛り上げるバックグラウンド。ギター、ドラム、それからベース。


……世界を食べるつもりなの?


いつの間にか閉じていた視界。


瞼を開くと、“ライブハウス・Candy Rain”の文字が、目に飛び込んだ。
ここは、そういうところらしい。


進んだ、ライブ会場の隅。真っ白なステージ。光を浴びるのは四人。

ここを響かせるアップテンポの明るい音は、絶対にバラードなんかじゃない。


……なのに。
儚いような、切ないような歌声が、全身に飛び込んでくる。


心にからまって、ぎゅうっと締め付けてくる、この声は……何?



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