【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
目を開けると、天井はオレンジに染まっていた。ベッドの硬い感触。


自分の家ではない。


カーテンレールに沿って引かれた、薄黄色のカーテンが、風にゆれている。


窓の向こうに目をやると、夕日のグラウンドで部活をしている生徒たちが見える。


ここは、保健室……?


身を起こすと、大賀君が脇の椅子に座っていた。


「あ……起きた?大丈夫?」と慌てて立ち上がる彼に戸惑う。


その一秒後、ようやく思い出した。


……そうだ。さっき、トイレで。


「ほんとにごめん……!助けてくれたの?……個室だったのに」

「悪いとは思ったけど必死で開けた」

「……ありがとう、ごめん」

「はぁー、よかった。びっくりした」


もう勘弁してよ、と彼は安堵の笑みを浮かべる。


「先生が今ちょうど用事で呼ばれたんだ。でも、多分すぐ戻れるって」

「あ、うん。わかった」


大賀君から視線をすべらせ、時計を見上げるともう七時前だ。


「ごめん!こんな時間まで……」

「全然?」

「……帰ろう!」


大急ぎで制服を整える私の手を大賀君が優しくつかんだ。


「具合悪いんでしょ。ゆっくりね。家の人に迎え来てもらえるの?」


「あ、そっか。LINEしてみる」


「迎え来るまで一緒に待ってるから」


「ううん、それはいいよ。大丈夫」


「なんで遠慮すんの。俺、葉由の彼氏でしょ」


「……」


そう、言われると、頷いていいのかわからなくなる。図々しいにもほどがある。


言葉に詰まる私を大賀君は笑い飛ばした。


「……はは。俺と付き合うの苦しいでしょ」


私はこんなに、首を横に振っているのに。


「もう付き合うのやめてもいいよ?今日こうなったのだって、もしかして、俺のせいじゃない?ストレスとかさ」


大賀君の静かな声は、寂し気に響いた。



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