【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
MCを終えて、マイクスタンドから手を離したボーカル。
誰より注目を浴びているのに、怖気づくこともしない。


ドラマーがスティックを鳴らす。縦の揃った音が会場に響き渡った。


ドラムの芯のある優しいビート。音楽を揺り動かすベースライン。ギターを操る滑らかな指の動きが旋律を弾(はじ)いて。


そして、真ん中の彼が息を吸う。



【ねぇ起きてよ、君に言いたいことがあるんだ】



切なさを孕んだ歌声に背筋がゾクっとした。



【またいつもみたいに、寝たフリですか?】



身震いする。鳥肌が立つ。
ドキドキして、目が開く。



【気持ちのいい天気だもんね。まどろんでいたいよね……】



さっきの曲とは対照的な、スローテンポのバラード。


……あっという間だった。
四人が。この世界を、掻っ攫ってしまった。


ボーカルの愛情こもった甘い歌声。さっきのとは段違いに、切なく胸に響く。


真っ白な光の下、一音を全身で奏でる四人の姿に、いつの間にか溜息が漏れていた。


ああ、これは。
……青春の、真ん中だ。



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