【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
そういう流れで今、第二音楽室の前にいる。


「ここを四人で使ってるんだよ。贅沢だよね」


ドアの小窓から覗く限り、広い教室にアンプやピアノ、ドラムセットなんかが置かれていて。


部屋の片隅には、譜面台が乱雑に立ち並び、椅子が重ねられている。


「てか、みんな遅くない?人のこと呼んどいて、内海めぇ」


内海君の名前だけ、そんなにドスの効いた声で言うんだ。


「ふふっ、西田さんおもしろい」


吹き出した私に西田さんが指をさした。


「……笑った!」


彼女はツチノコでもを見つけたかのように、目を見開いている。


「笑うよ……?」


「ううん、ちゃんと笑ってるのは今初めて見た!」


そう言い切られてしまうんだから、私の作り笑顔って言うのは、相当下手なんだろう。


「葉由可愛いね。もっと笑ったらいいんだよ」


今まで、ちょっときつい子って思ってたのにな。


こんなふうに、笑ってくれるなんて……。


「このふわふわウェーブの髪いいなぁ。ってかさ、大賀ってポニーテール好きだよ?」

にやり、その何か企んでいる顔は、なんだろう?


「してあげるっ」


語尾が高ぶった、楽しそうな声。


「え……?え?」


戸惑う私なんかお構いなし。もう髪の毛を一つにまとめられている。


西田さんが手首にひっかけていたゴムで髪を結んで、出来上がり。


「葉由かわいいじゃん!ちょっと元気っ子っぽく見える」


いつも、暗いかな。やっぱ……。


「ありがとう」


髪はいつも下ろしているから、首元に風が通る違和感が、なんだか恥ずかしい。



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