【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
「鍵開いてなくて。笠間鍵持ってる?」

「持ってなーい。内海じゃね?」

「えー内海?あいついつも遅刻なのに。マリちゃん連れて来てくれない?」

「なんであたしが!」


そう文句をいいつつも、西田さんはしぶしぶ教室棟の方へと歩き出した。

「俺、飲みものでも買ってくるわ。葉由も行こ」


伸ばされた手を、そっとつかむ。
こんなにドキドキしているのは、私だけなんだろう。


まっすぐ前だけを見る彼は、どんなことを考えているんだろう。



廊下を抜けて、階段を下りて、自販機の前にたどり着く。


「あの……練習見に行ってもよかったのかな?」

「なんで?いつでも来たらいいじゃん」

「……今までの彼女さんもよく来てた?」

「んー、あんまり誘わなかったかな」

「え、それじゃあ……」

「でも葉由はいいよ」


ゴトン、ゴトンと自販機の中で、飲み物が転げ落ちる。


大賀君は、かがんで取り出し口に手を突っ込むと、落ちてきたペットボトルのうち一本を私に差し出した。


「あげる」


遠慮を数回繰り返して受け取った冷たいペットボトル。宝物みたいに私の手の中に納まっている。


大賀君は言う。


「葉由にはまた、俺たちの歌聴いてほしかったんだよね」


そういうことを、簡単に言う。



「……え、っと……。嬉しい……」


こみ上げてきた笑みを隠すように、床の木目に視線を落とすと。


「上向いて?」


甘すぎるくらい、優しい声。

その声に誘われて、背の高い大賀君を見上げる。



「……笑った」


目の前の大賀君の満足げな笑み。


それは、ちょっと、くすぐったい。


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