【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
大賀君の握るペットボトルが、右手、左手、右手と行き来している。


パシ、パシ、と廊下に音を響かせながら、ぼうっと遠くを眺める大賀君は、少し遅れて歩き出した私を振り返った。


ペットボトルが、止まる。


大賀君の視線も、私に、止まる。


時間まで止まった気がした。


大賀君の唇が、少しだけ動く。
ふっと笑みを浮かべた。


なんだか、やけに切なそうに……。



「葉由のそれ、ポニーテール。初めて見た」

「西田さんが結んでくれてたの」

「そうなんだ。またしてよ」


にこっと口角をあげる大賀君に、素直に頷いてしまう。


……西田さんの言うとおりだ。大賀君って本当にポニーテールが好きみたい。


「約束ね」


いたずらっぽい顔でそう言って、隣を歩きはじめた時。


「あ。先生だ」


そう言う彼の視線は、向こうの棟を歩く、担任の先生の方を向いていて。


「日本史のプリントの提出って今日までだっけ?」


「うん。今日の四時って言ってたよ」


「やっば……ちょっと交渉に行ってくる」



まだ、出してなかったらしい大賀君の背中に「がんばって!」というと。


「おう!」っと振り返り、片手をあげながら子供っぽく笑って、先生を追いかけて行った。



こういう、大賀君の隙みたいなところを見ると、なんだか意外で……すごく、胸がきゅんとする。



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