【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
肩からベースをひっかけている笠間君が、手招きする。


「一回合わせてみようと思って。入んなよ!」


音楽室に入ると、笠間君がしっかりと防音扉のドアノブを下ろした。


「んじゃ、やりますか!」


大賀君と栗原くんがギターを、笠間くんがベースを構えたことを確認して、ドラムの内海くんが、スティックを数回鳴らす。


激しいドラムの音から勢いよく始まったメロディライン。軽快で、だけど少し幻想的なロックの始まり。


ライブ会場よりも、がぜん、全身に響く。


マイクを握る大賀君が、すうっと息を吸い込んだ。


音楽室に響く大賀君の甘い歌声は、やっぱり切なさをはらんでいて。


私は、初めてカムを見たあの時みたいに、いつの間にか涙をこらえていた。


ベースラインが音楽を揺り動かし、盛り上がりのピーク。
大賀君の歌声は、強く何かを訴えるみたいに響くんだ。心の底まで。深く。


ぐっとこらえる。下唇を痛いほどかみしめて……。


アウトロの最後の一音はとどめを刺すみたいに、美しく響いた。


静まりかえった第二音楽室。
大賀君は大きく息を吐いて、まだ荒い呼吸を続けている。



「……どうだった?」


なにかを声にしたら、涙が溢れちゃいそうで、拍手しながら頷くしかできない私の隣で、西田さんが「めっちゃよかった!感動した!」と叫ぶ。



ベースの笠間君が黒髪を掻きあげて、はーっと溜息をついた。


「まじで大賀天才だわ。栗原も」


「俺をついでみたいにすんじゃねーよ。今回のこれ、お前らに否定されるし、一回データ飛ぶしで、どんだけ頑張ったか」


「データのはまじでやばかった。血の気引いたよなぁ」


大賀君は笑いながら、ペットボトルのお茶を喉に流し込む。


「……え?もしかして大賀と栗原が曲作ったの?」


西田さんが目を瞬かせながら、内海くんを見た。



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