【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
遅れて、状況が読めてきた。
そこにいる大賀君の存在に、心臓が跳ねあがる。


「……二人っきりだね?」


大得意、いたずらっぽい笑みが心臓を急かしていく。


「葉由緊張してるでしょ」

「それは……うん」

「あはは、いい加減慣れなよ」

「……慣れられる気がしないよ」



たまに手を繋いで、目を合わせては、くすっと笑う。


そんな時間がたまらなく愛しい。


大賀君を見上げる私の視線と、大賀君のが、絡み合う。


私のことを好きなんじゃないかって、自惚れてしまいそうなほど、うっとりとした目が……。


じっと、私を捉えている。


心臓がせわしない。


「葉由……」


私の後ろ頭に伸びた大きな手が、少しずつ、大賀君の方へ引き寄せる。


彼の顔とわずかに距離が近づいた。



……き、キス?


唇をきゅっと閉じる。


けどその瞬間、ふっと頭が軽くなった。


大賀君の手が私から離れてしまったから。


「ごめん……」


そんなふうに謝られたら、肩透かしを食らった私は、どうしたらいいんだろう。


恥ずかしい。虚しくなる。みじめだ。
やっぱり自惚れだった。


大賀君が、私なんかに、本気になるはずがなかった。


泣きたい気分だけど、あえて口角を上げて、首を横に振る。


そんな私を横切ろうと、斜めに一歩踏み出した大賀君。


私の耳のすぐ傍で、とまった。


「……俺、葉由のこと……好きかもしんない」


迷いのこもった、だけど甘ったるいかすれ声。


ふいを突かれた私の心拍数は、一気にのぼりあがる。


「……今こっち見ないでね」


そのまますれ違うように、大賀君は廊下を目指して歩き始めた。

目で追った一瞬。

耳まで赤く染まった大賀君の横顔に、心臓が痛いほど動いていた。



< 88 / 206 >

この作品をシェア

pagetop