【完】一生分の好きを、君に捧ぐ。
日に日に大賀君のことを好きになっていく。


同じ教室にいるだけで、胸が高鳴る。壊れないか心配になるほど。


だって、あんなこと言われたら……。おもいだすだけでポッと頬が熱くなる。


「じゃあ各班ごとに開始してください」


先生の指示で我に返った。


一限は化学の実験。


生徒は雑談混じりに、あちこちの棚の引き戸を開けて、道具を用意しはじめる。


「楠本さん、ビーカーもう一個持ってきてくれない?」

「うん」


言われるがまま、実験室の後ろの方へ行き、ビーカーの並ぶ棚に手を伸ばす。


もう高い位置にあるものしか余っていない。


思いっきり踵をあげて、ピンと腕を伸ばす。

ビーカーの口に指先が触れて、そのまま少し傾けた時。


「とろうか?」


その声が大賀君のものだと反射的に分かって、びくっとしてしまった。


「あ」


ガシャーンッと派手な音を立ててビーカーが割れた。


クラス中の視線が一斉に集まる。恥ずかしい。
慌てて飛び散ったガラスの傍にしゃがみこむ。


「触るな」と短い声がして、同時に伸ばした手にスッと痛みが走った。


思わず手をひっこめる。


カランと床に落ちたガラスの破片。



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