LONELY MOON ―ロンリームーン―
 


さすがにそれを無視することも、目をそらすことも出来ず、俺は硬直したままだった。



「あの…昨日はビックリさせちゃったみたいですみませんでした…っ」



一瞬その言葉の意味が分からなかった。

ビックリさせた…?

それは普通に考えて俺の方だろう。
なんせ寝ているところを上半身裸の強面男が覗き込んでいたのだから。

俺は女の言動に目をぱちくりさせた。

しかし女は、心底申し訳なさそうな表情だ。

これはさすがに、何か返答しないと、



「…悪いのは、俺のほうだ」



やっと声を絞って出てきたのが、この二言。

それでも尚、女の大きく黒い目は俺の方へと向けられている。

それももうもどかしくなって、俺はむくりと起き上がり、今度は語勢を強くして、



「お前は悪くねェ」



その俺の言葉で、女はやっとほっとした表情を見せた。

…そんなに俺は怒ったように見えたのか…?

女はあの笑顔を見せて、俺にこう続けた。



「あの、それじゃあ今日はベッドお借りしますねっ」


「…あ、オイ」


「…はい?」



無意識に、呼び止めていた。

何故だかは分からない。ただ、呼び止めたかった。

特に話すこともなかったために、呼び止めたくせに言葉を発することが出来なくて、少しだけそこに沈黙が流れた。

そして、また声を絞って出た言葉が



「…なんでお前、…敬語、なんだ?」

「はい?」



 
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