LONELY MOON ―ロンリームーン―
 


「…優しくなんかねェ」


「嘘っ!

だって私の具合のこと気にかけてくれたりとか、今だってこうして送ってくれてるでしょう?」


「…………」




何もいえなかった。

だが俺はこいつが言うような、そんな出来た人間じゃねェ。

俺が黙っていると、小さく口を開いた。



「…それに、噂なんてデタラメばっかりだもの」


「……?」



その言葉は、どこか遠い方向を見ながら呟かれた。

どうした、と声をかけようとしたとき、



「あ!!私の家、ここっ!」



さっきの言葉を取り消すかのように、声を張り上げてそう言った。

私の家、と指差したそこは、巷で噂の高級マンションだった。



「…ここに住んでんのか?」


「うん、一人暮らしだけど」


「一人暮らし!?」


「うん」




こんな豪邸に住んでるっつーことは、家は社長かなんかか?

だが、一人暮らし…。

気になるがいろいろあるものの、聞き入るなんて野暮な真似はする気がない。




「ここまででいいよっ!!

送ってくれて本当にありがとうっ」


「…別に」



そのままそこを後にしようとすると、




「ごめんね、家と反対方向だった?」


「…別に家にゃ帰んねェ」


「え、なんで?」


「…だりィから」


「そんな、お家の人が心配しちゃうよ?」


「ハッ、んなモンしねェよ。あの親父は」


「…そう?」


「…じゃあな」




…家になんざ当分帰ってねェ、が、帰る気なんざさらさらねェ。

俺は別れを告げて、街中へと向かった。





 
< 24 / 33 >

この作品をシェア

pagetop