ことほぎのきみへ
ぱさりと


軽い何かに体を包まれる感覚


突然訪れた違和感に
ほんの少し顔をあげる



…………上着?




「風邪ひくよ」




肩にかかってる男物の大きな上着に

すぐ傍からかけられた声に


そこにいたその人に愕然とした





目を見開いて、硬直する








……どうして、この人がここにいるの?



探してしまっていた人
だけど見つかるわけがなかった人


なのに何故か今、目の前にいる




「夏とは言え、この時間の海辺は
風とか冷たいんだから」

「…」


そんな風に気遣いの言葉をくれるあの人に
私はびっくりし過ぎて、声を返せなかった



…………え……
……………………え?


…………………………幻…………?



ごしごし目をこするけど



「?目にごみでも入った?」



首を傾げるあの人




……
……幻じゃ、なさそう…………





「なんで……」


「なにが?」


「……だって、【夏が明けたら】って……」


「ああ、もしかして夏が明けるまで
俺がここに来ることないって思ってた?」


……こくりと頷く


「確かにその予定だったんだけど
今回は早めに帰ってきたんだ」


「…………帰ってきた?」


「うん。俺、この辺に住んでるんだけど
夏の間は叔父の家に居候してるから。
ほら、きみが友達と旅行で来てた観光地。
叔父の家、あの近くなんだ」


「……そう、ですか……」



短い会話で謎に包まれていたこの人に関する情報が一気に得られたけど

正直、動揺し過ぎて頭に入ってこない
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