ことほぎのきみへ
素直に泣けない私に


この人は泣ける理由を作ってくれようとしてる



「いいよ。泣いて」



……その優しさが胸に染みる



それでも


泣くことにどうしても抵抗があって


その優しさに甘えることに罪悪感を感じて



俯いたまま緩く首を振る




「泣けるときに泣いてた方がいいよ
我慢ばかりしてると泣きたくても泣けなくなるから」



「…それは、悲しくて辛いことだから」



ほんの少し声に滲んださみしそうな音

反射的に顔をあげる



「…」


…………再会してから初めて


この人から表情を見つけた



この表情は……





「……あなたも、「悲しい」?」




問いかけると、あの人は少しだけ目を見開いて


それから


とっても優しく微笑んだ


あの時以来のその笑顔は

笑っているのに
泣いているように見えて


それがなんだかとても苦しくて


……胸が痛くなる




「きみが泣く資格がないとか
許されないとか、そんな事を思っているなら」



「俺がきみにその資格をあげるから
俺が許すから
俺が全部、責任をとるから」



「だから、泣いていいよ」



……
……



どこまでもどこまでも

この人の言葉は、声は私に優しくて

何も話してないのに私の気持ちを汲み取ってくれて


心のどこかでずっと望んでいた言葉を

欲しいと思っていた言葉を

惜しみなく無償で与えてくれるから




こらえていた涙がふちからこぼれ落ちる



ぼろぼろ涙が溢れて



もう、止められなかった
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