ことほぎのきみへ
……
……



「……あの……」


「ん?」


「……色々……ごめんなさい……」



目を伏せて、小さく謝罪の言葉を口にする




時間が経つほど
冷静になればなるほど


さっきの光景が頭に浮かんで



散々泣きじゃくって
みっともなくこの人にすがった自分を

醜態をさらした自分を思い出して

恥ずかしさやら申し訳なさやらが溢れて


……いたたまれない




「なんで謝るの?」

「……迷惑ばかり、かけてるので……」

「俺、自分がしたくないことはしないよ
面倒だって思ったら最初から関わらない」



あの人は言いながら
私の前のソファーに座ると
バスケットの中のお菓子に手を伸ばす



「ただ俺が、きみのことが気になって
放っておけなかっただけ」



……
……
……



「…………というか、むしろごめん」



その手がぴたりと止まる


一瞬、何かに気づいたように無言になったあの人が

何故か、ほんの少し困惑したように私に謝る



「……え?」



謝られる理由に思い当たらず、きょとんとする



「よくよく考えたら
親しくもない男に触られたり
家に連れてこられたりしたら
気持ち悪いし、怖いよね」


「今のセリフも客観的に聞いたら
なんかキモい」



相変わらず表情は変わらないけど
あの人はどうやら自分の言動に後悔してる様子


私はと言うと



……

…………全然、そんな風に思わなかった……


言われ始めて


これっぽっちの警戒心も感じず
無防備にこの人の前に座っている自分に気付いて驚く
< 106 / 252 >

この作品をシェア

pagetop