ことほぎのきみへ
……この人の言う通りだ


普通だったらそうだ


大して知りもしない親しくもない相手に
触られたり抱き締められたら

不快感や嫌悪感でいっぱいになるはず

恐怖心だって生まれるだろう


家に連れてこられたら
身の危険を感じたりもするはず




なのに




……全然、嫌じゃなかった



怖くもなかった



申し訳なさや恥ずかしさでいっぱいにはなっても


この人に対して嫌悪感や不信感なんて
微塵も感じない




……
……
…………私、おかしいのかな



単に認識が甘い?



…………それとも、この人だから……?






「えっと…誓って手を出すつもりとかないから
犯罪に手を染める気ないから」

「…」


真顔でそんな事を言うあの人が


必死に弁明するような姿が



…………申し訳無いけど、おかしくて



思わず笑ってしまう




「え、今の笑うとこ?
俺割と真面目に言ってるんだけど」


「ご、ごめんなさい
なんか、面白くて……」


「……まぁ、いいや
なんか、笑ってるの見たら安心したから
俺ごはん食べていい?」



………『安心』……



…………本当に、この人……



顔に出ないから分かりにくいけど


優しい人だ




「どうぞ」


「ありがと、きみはほんとに何も食べない?」


「……お菓子、もらいます」



小さく笑って控えめにそう返すと
あの人は、ほんの少し表情を動かして

目元を和らげてキッチンへ向かった

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