ことほぎのきみへ
…何か作るのかな、と
少し気になって窺っていると

冷蔵庫には手をつけず
あの人は戸棚から何かを取り出す

それは
さっきたくさんあると言っていたカップラーメン
だった



「……夜ごはん、それですか?」

「うん。楽だし
俺のごはん、大概これ」


思わず口を開いてしまった私にあの人は
手にしたカップラーメンをテテーンと見せて
そんな不摂生な発言をする


……大概カップラーメンって……


「家族の人とかに怒られません?
栄養偏るって」

「大丈夫。俺、家族いないから」

「…」



さらりと事も無げに言われたものだから
そのまま、聞き流しそうになった



「…………いない?」

「うん。両親は亡くなってるし
兄妹とかもいないから」

「…」



……言っちゃいけない、聞いちゃいけなかった言葉だったかもと


焦って、言葉に詰まる私に


あの人はもう一度「大丈夫だよ」と繰り返す



「亡くなったのは随分前の事だし
感傷に浸ったりする時期はもうとっくに過ぎたから」


「…」


「親がいないなんて、珍しいことでもないし
その事で何か言われたり、聞かれたりしても
傷付いたり、感情的になったりしないから
だから、気にしないで」



…今の私みたいな反応にも慣れてるのか

実際に腫れ物に触るような扱いを受けたことがあったのか


分からないけど


あの人は落ち着いた声でそう話す
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