ことほぎのきみへ
冷蔵庫の中や、棚にたくさんある調味料や
置いてある調理器具を見る限り

使ってる形跡はある

できないわけじゃなく、しないんだろう



「まあ…一通りの家事はできるけど」



できることならしたくない、と呟きながら
スプーンを手に取るあの人


「いただきます」


きちんと手を合わせてから
リゾットを口に運ぶ


……


……味見はしたけど
優や花菜達が好きな味付けのまま作っちゃったから、少し味が濃いかもしれない


「……味、どうですか?」

「うん、美味しい」

「良かった」


どうやら口にあったようで

ぱくぱく食べてくれるあの人にほっとしながら
私はキッチンであと片付けを始める



「…手慣れてるけど、料理好きなの?」

「好きと言うか
私も母を亡くしてるので自然と」



自然と必要に迫られてやる内に
それまで出来なかった事ができるようになった

料理も洗濯も、掃除も



きっとこの人だって同じだろう


玄関もリビングもキッチンも
すごく綺麗で、でも生活感はある

一通りの家事はできるって
さっき言っていたし

身の回りの事はちゃんとしてるんだろう




「……きみがあんな顔してたのは、その事に関係してる?」





背後から飛んできたその問いかけに
ぴくりと体が反応する



「……私、どんな顔してました?」


「泣きたいのに泣くのを嫌がるような顔
痛みに耐えるような、そんな顔してた」


「……そう、ですか」
< 110 / 252 >

この作品をシェア

pagetop