ことほぎのきみへ
……
……
……


「…にしても、あのひさとが人助けねぇ」



案内された客室で

勝手知ったる我が家のように
色々準備をしてくれていた矢那さんが
心底意外そうに声を漏らした


「?」


寝床の準備を手伝いながら首を傾げる



「ひさとは極度の人嫌いなの」

「…そうなんですか?」


「めんどくさいこととか大っ嫌いで」

「…なら、どうして私を助けてくれたんでしょう」



人嫌いなら、面倒な事が嫌いなら尚更不思議だ


『面倒だって思ったら最初から関わらない』

……あの人はそう言ったけど


今までの私の状況は全部、面倒事に当てはまるから


だけど、あの人は助けてくれた


厄介事に自分から首を突っ込んで



「よっぽど気になったのね、あなたの事」



「…………自分と、似ていたからかしら」




ふっと表情を落として、小さく呟いた矢那さん
その言葉をしっかり耳に拾ってしまった私は
また、首を傾げた


「似てる?」

「ざっくりとしか聞いてないけど……
境遇とか雰囲気とか、抱えるものとか」

「…」


矢那さんには本当に軽くしか
自分の過去の話をしていない

経緯を話す上で必要だと判断した
最低限の情報以外は

けど、この人もひさとさんみたいに
相手の感情の変化にさといみたいで


口にはしないけど
私が、人には言いづらい何かを持ってることに
なんとなく気付いてる



「…あんまり、似てるようには思いません」



親を亡くしてる点は一緒だけど

すぐにぶれる私とは違って
ひさとさんははっきりとした自分を持ってるように見える

まわりに流されないで
ちゃんとしっかり地に足をつけて生きている感じがする



「ひさとはね、あれで中々面倒なものを抱えてるの」
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