ことほぎのきみへ
…あの後、何度も海に行ったけど
あの人と会うことはなかった


今も自分で自分の首を締めている状況はかわらない


でも
あの人の言葉がきっかけで、少しの逃げ道を見つけた


どうしても罪悪感はなくならない
自己満足の罪滅しはやめられない


けど、本当に心から嫌だと、耐えられないと
思ったとき


精神的にも肉体的にも無理だと思ったとき
それから距離をとることを覚えた


ゆうりや亜季、一樹のように
素の自分を出せる相手と一緒にいる時間を増やした


……あの時より、ずっと楽に生きられるようになった


全部あの人のおかげ



名前も年齢もなにも知らない

ほんの少しの時間一緒にいて
少し言葉を交わしただけ


けど、確かに救われた


ふとした瞬間思い出して会いたいと思う
お礼を言いたいと思う



「…でも、会えない。よね…」


あれからもう3年経つ
ほとんど諦めかけている



けど、心の中ではまだ
捨てきれない僅かな期待を抱えていた
< 12 / 252 >

この作品をシェア

pagetop