ことほぎのきみへ
反射的に手が伸びて
ひさとさんの髪を撫でてしまって

慌てて手を引っ込める


……つい、癖で……


…………習慣って恐ろしい



「いや大丈夫」

「だらしなさすぎて見るに耐えなかったのね
ひさと、顔洗ってきなさい」

「ん」



矢那さんに言われて、素直に洗面場に向かうひさとさん

軽く悪口言われてるけど
寝起きだからかまったく気にしてない



……気を付けよ


自分の手を見下ろし思った



……
………………髪、ふわふわしてたな



……
……
……




「ねぇ、いろはちゃん」

「はい」

「……もし、よかったらなんだけど
たまにでいいの
ひさとの様子見に来てくれないかしら」

「え?」


みんなで朝ごはんを食べた後

一緒に並んで洗い物をしていた私と矢那さん
突然そんな事を言い出した矢那さんに
私は間の抜けた声を返す



「ひさとが自分から誰かに関わったのは
もう数年ぶりだから
……他人との関わりを、繋がりを切って欲しくないの」


リビングの窓越しに
庭先で洗濯物を干してるひさとさんに目を向ける矢那さん



「ひとりにはしたくないの」



……優しい眼差し

だけど、どこか不安そうな
ひさとさんの先行きを心配するような目

実の母のような、姉のような

ひさとさんに対する深い情を感じる



………その『ひとり』は


『一人』なのか『独り』なのか


……
……多分、両方かな




「矢那さんがいるじゃないですか」

「身内と他人はまた別なのよ」


困ったように笑って私の頭を撫でる


「ひさと、いろはちゃんは大丈夫みたいだし」

「…」
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