ことほぎのきみへ
「……それでもね
私、前に進みたいって思ったの」




自分を過去に縛りつけるのはやめようって

あったこととして、ちゃんと受け入れた上で
生きていこうって思った




『大切だった』


今も大切


『愛してた』


今も愛してる



『それでいいんじゃないの』



……うん


これでいい



【いろは】


あの優しい笑顔の
日だまりのようにあったかい人との思い出を
暗いままにするのは嫌だ

思い出す度に悲しくなるのも辛くなるのも


優しい記憶、楽しい思い出


泣くんじゃなくて

笑って話せるようになりたい



『……そうか』


「うん」


『もうすぐ帰るから
それまで家を頼むな』


「うん」


『いろは』


「ん?」


『俺もゆずきも
お前が笑って生きてくれるなら
それだけで充分なんだ』


「…」


『逃げてもいい、忘れてもいい
放り出したって構わない
お前はお前が幸せだって思える生き方を見つけなさい』


……


「………はい」



じわりと滲んだ涙を押さえて

小さく笑って

電話先のお父さんに声を返した
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