ことほぎのきみへ
……
……



「それで、結局いろはのクラスは何をするの?」

「ドーナツ屋さんになりました」

「ドーナツ?」

「はい。今、色々調べてるんですけど……
どういうのがいいかな…」

「いろはが作るの?」

「いえ。
私はレシピ考案と、チラシ作成班で
当日は売り子です」


スマホでドーナツのレシピを探しながら
目の前のひさとさんに声を返して
私は手元のノートにペンを走らせた



無事テストも乗りきって
この間、クラス会議で文化祭の出し物について話し合った

私達のクラスはドーナツ屋さん
亜季と一樹のクラスは男女逆転喫茶でも休憩所でもなく、何故かたこ焼き屋さんになった


「野菜、米粉、とうふドーナツ、揚げたドーナツ
ひと口サイズのボールドーナツ、アニマル型ドーナツ……」


……どんなのがいいだろう

万人受けしつつ、作るのが難しくなさそうなものがいいけど…

たくさんのレシピや画像が出てきて
材料や形、種類も豊富にあって悩む



「大変そうだけど、楽しそうだね」

「そうですね。賑やかなの嫌いじゃないので」


文化祭当日よりも文化祭の準備期間の方が好きだったりする

どこかわくわくそわそわした
いつもと違う活気に満ちた放課後の時間が
浮き足だった空気がなんとなく好き


楽しそうな皆を見てると
伝染して自分も楽しくなるからかもしれない


「俺は苦手だな。騒がしいの」


また何か絵を描いていたひさとさんは
スケッチブックを閉じると
椅子から立ち上がってキッチンに向かう


「人混み、だめですか?」

「うん。声とか音とかだめ。
雑音にしか聞こえない」


冷蔵庫からペットボトルのお茶とジュースを
取り出して戻ってきたひさとさんが
その内のひとつを私に手渡した
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