ことほぎのきみへ
「…」

「……なんで、落ち込むの?」

「…え?」

「いろは、分かりやすい
顔に出てる」


ペットボトルのジュースを受け取って
そのまま少しうつ向いた私に
ひさとさんがそんな指摘をしてきて
慌てて両手でほっぺたを押さえる


……そんなに顔に出てる……?


……
……


「………………その、文化祭…
ひさとさんが来てくれたら嬉しいなって……思って……」


文化祭良かったら来てくださいって
言おうと思ってたから

だけど、人混みが嫌いならそれは難しいかな
うちの学校、毎年一般の来場者数すごいみたいだし


「俺が行ったら、いろは嬉しいの?」

「…嬉しい……です」



……あ。


……さっきから

ついうっかり「嬉しい」なんて言葉が
口からぽろりと出てしまってる


「…」


……な、なんか、急に恥ずかしくなってきた……


見に来て欲しいなんて
授業参観で親が自分の教室に来るのを心待ちにする小さな子供みたい

自分の幼い言動に内心で悶絶してると
ひさとさんが私に


「じゃあ行くよ」


と、実にあっさり頷いて


「…へ……。
…………あ、あの……無理強いする気は…っ」

「別に無理はしてない」

「でも」

「いろはが嬉しいなら行く」

「…」



事も無げにさらりと言われて
呆気に取られた後、徐々に顔が熱くなる


……


……ひさとさんは
人嫌いだ、めんどくさいのが嫌いだって言うのに
いつもいつも私を気にしてくれて

料理も今の誘いも

本来は乗り気じゃない事にだって
私の反応を見て合わせてくれるから



「……どうして、ひさとさんは
そんなに私に良くしてくれるんですか?」


ひさとさんは
私が嬉しいと思う言葉や行動を選んでくれてる
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