ことほぎのきみへ
そんな風に思う時もある


「良くはしてない」

「してます」

「きみが笑ったり喜んでるのを見るのが好きなだけ。俺のため。自己満足だよ」

「…どうして私が笑うとひさとさんが満足するんですか?」

「……。
……なんでだろうね」

「…」


一瞬、間があったから
その理由に思い当たる節はあるんだろう

だけどひさとさんは言葉を濁した



「いいんだよ
前も言ったでしょ。俺の事は気にしないでって」

「…」


不服な表情をしていたであろう私に
ひさとさんはそう言って
そばに置いてた本を読み始めた



……

……気になるって言ったら、どうするだろう

ひさとさんの事をもっと知りたいって言ったら

この人はどんな反応をするだろう




段々慣れつつあるこの人と過ごす時間

自分の日常に組み込まれていくこの時間


そんなに話すわけでも
特別な事をしてるわけでもないけど

この空間に流れる空気は気まずくなくて

ただただゆったりと柔らかい

心が穏やかで落ち着く


家族といる時の安心感や
友達といる時の楽しさとも似てるけど違う




……もう少しで、分かりそうな気がする


この気持ちの正体


でも、


それを知ってしまったら


この時間を失ってしまうような気がして

この人との距離が遠くなるような気がして



それがすごく





怖い



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