ことほぎのきみへ
「…」

「……気付いては、いなかった?
その人が好きだって事」


言葉を失う私を
窺うように眺めて、ゆまちゃんは少し困り顔

私の反応に
自分が放った言葉を少し後悔してるみたいだった


……旅行中も、それから今までも
きっとゆまちゃんはずっと気にしてたんだろう

だけど私がこうやって動揺するのが分かったから
困り果てたような反応をするのが分かってたから

何かを言ってきたり聞いてきたりしなかった


今のゆまちゃんの表情を見て、そう思った


……
……


「……それとも、気付きたくなかった?」


……。


「…………ゆうりにも、言われて……でも……」


ぐっと胸を押さえる


「…………こんなに、怖くて、不安で
泣きたくなるような気持ちのこれが恋なのかな」


甘酸っぱさなんて、全然ない

むしろ、苦い



あの人が好きなんだって指摘される度に
恐怖に襲われる


好きなの?と自分に問いかける度に
好きだったら困る、怖い、嫌だって気持ちが湧いてきて泣きそうになる



「……わかんないの」


好きだって気持ちはもっと
明るくて綺麗で、胸が踊るようなものだって
皆を見てて思ってたから


悩むことや時折、苦しくなることはあっても
それでも皆は幸せそうだったから


だから
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