ことほぎのきみへ
小さく頷く私を見て、ゆまちゃんは
「だからだよ」と『お母さんの死』を指摘した


「大切な人を失う痛みを知ってるからこそ
怖いんだよ」


「その人が家族以上の「特別」になってしまったら」


「失った時に感じるであろう
お母さんを、家族を亡くした時以上の
喪失感や絶望が怖い」


「だから、認めなくなかった
受け入れたくなかったんだよ」


「だけど、怖いって、不安だって
泣きたくなるほどの恐怖を抱いてるその時点で
もうその人はいろはちゃんにとって家族よりも
『1番』、『特別』な相手なんだよ」



……
……
……



茫然としながらも

言われた言葉をひとつひとつ心の中で繰り返して

飲み込んで



……納得した



……大切な存在ならたくさんいる


ゆうりや亜季、ゆまちゃん、一樹…

まなぶ先輩やつゆき先輩、悟先輩だって


矢那さんだって


だけど、『家族』以上ではなかった


亜季の言うように
かけがえのない人達だって思ってはいても
それ以上ではなかった


でも


……ひさとさんだけは違った


同じように大切だと思っているのに


こんなに怖くなるのは、不安になるのは
あの人だけ


好きだって

それが人としてって言うだけでも胸が痛んで

なのに

それが恋愛の、『特別』の好きだって

思うだけで、こんなに痛い



「…」



何よりも失いたくない存在だからこそ

1番、大切で大事な存在だからこそ

……1番……好きだからこそ……



私はずっと


それを知るのが、怖かったんだ
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