ことほぎのきみへ
……それが、少し寂しくて


だって、嫌なわけじゃないから

恥ずかしくてどきどきするだけで


ひさとさんから触れられるのは……むしろ、好き


あったかくて大きな手
今は恥ずかしさも感じるけど
触れられると不思議な安心感


だから


私の事を
気にしてくれてのことだって分かってても
こんな風に距離をとられるのは少し寂しい



……
……


「はい。終わり」

「…ありがとうございます」


私の傷の手当てを終えて

小さめの救急箱のふたをぱたんと閉じて
もとの場所に戻すひさとさん


「…」


人差し指に巻かれた絆創膏から
ひさとさんに視線を移動させる



『ずっと一緒にいたいなら
ちゃんと気持ちを伝えないと』


…。


ゆまちゃんに言われた言葉がずっと
頭の中をまわってる


……今すぐじゃなくていいって
焦らなくていいから
私の気持ちが落ち着いた頃に伝えるといいって
ゆまちゃんは言ってくれたけど……



「…」


気持ちが落ち着くことなんてあるのかな


ゆまちゃんと話して
自分でひさとさんへの恋心を認めて

あの、泣きたくなるような恐怖は薄れた

だけど、無くなったわけじゃない

まだ心の中に根深く残ってる


ひさとさんの事を思う度にざわざわと騒ぎだす



それに

新しく増えたこの……気恥ずかしさ


ひさとさんの一挙一動に過剰に反応する体


……これがすごく厄介で


気持ちが落ち着くどころか
どきどきして、どうしようもなくなる
< 172 / 252 >

この作品をシェア

pagetop