ことほぎのきみへ
……ゆうりの気持ち、ようやくわかった


両手で顔を覆って、深くため息をつく


…………恋心って……
思っていた以上に大変……



「…」


ちらりと
救急箱を片付けてるひさとさんにもう一度視線を向ける


…。


……今、好きだって伝えようとは思わない


ひさとさんが今
色々大変だからって言うのもあるけど


純粋に、まだ私の覚悟が出来てない


伝えるのが怖い



「…いろは」

「は、はいっ」


くるりと振り返ったひさとさん

じっと見ていたことがばれたのかと焦って

声が裏返る



「猫、好き?」

「……へ?」


だけど向けられたのはそんな問いかけ

予想外の唐突な質問に
私は締まりのない声を出してしまう


「猫」

「……?…す、好き、です……けど…」


確かめるようにもう一度
言葉を繰り返すひさとさん

怪訝に思いながらもそう答えると


「そう。じゃあ行こう」

「え?ひ、ひさとさんっ?」


私の返答を聞くなり
ひさとさんはそのままリビングを出ていこうとして

私は慌ててひさとさんを呼び止める


「い、行くってどこに…?
後、料理まだ途中で…」


手当てのため中断していたお昼ごはんの準備
中途半端に切った野菜と放置したままの調理道具

雑然としたままのキッチン


「いいよ、そのままで」

「で、でも」

「食材だけ冷蔵庫にいれておいて
後で俺がちゃんと使うから」

「…」

「ほら、おいで」



そう言って私を手招くひさとさん


なにがなんだかさっぱり分からなかったけど…
珍しく強引なひさとさんに負けて

切りかけの野菜だけ冷蔵庫にしまって

私は言われるがままひさとさんについていった
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