ことほぎのきみへ
……
……



それから数日後


いつものようにひさとさんの家を訪れた私

けど、この日

私を出迎えてくれたのはひさとさんじゃなくて
矢那さんだった



「久しぶりね、いろはちゃん」

「お久しぶりです」


こうやって面と向かって話すのは、あの夜以来


相変わらず朗らかに笑う矢那さんに
私は「ひさとさんは?」と問いかける


「出掛けてるわ
もう少ししたら帰ってくると思うけど」

「そうですか
あ、矢那さんもごはん食べていきますか?」

「いただくわ」

「じゃあ準備しますね」

「手伝うわよ」

「ありがとうございます」



並んでキッチンに立って
お昼ごはんの準備をしながら

私はちらりと隣の矢那さんに目線を向ける


……。


「……あの……矢那さん」

「なーに?」

「…聞きたいことが、あって……」

「聞きたいこと?なにかしら」

「……ひさとさんの事、なんですけど……」

「ひさと?……まさかまた何かやらかした?」



鼻歌を歌いながら野菜を洗っていた矢那さん

私がためらいがちに口を開いたせいか
ひさとさんの名前を出した途端に眉間にシワを寄せた


「ちがっ、違います……っ」


ぶんぶんと勢い良く首を横に振る


「……その、ひさとさんの事を色々…
教えてもらいたくて……」

「…ひさとの事?」

「はい」

「別に構わないけど
本人に聞いた方が早いんじゃない?」

「……あの日から、話してくれなくなってしまって」


「それまでは時々
昔の事とか、自分の事、話してくれたんですけど」


「あの日の夜に……
……私が泣いてからはほとんど……」



聞いても、返ってくるのは曖昧な返事ばかりで
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