ことほぎのきみへ
「……ああ。ひさとの親云々の話を聞いたのよね」


ひさとさんの過去
あの日、私が泣いた理由

その場に居合わせて事情を知ってる矢那さんは
表情を戻して少し声のトーンを落とした


私は小さく頷く


「ひさとさんが答えたくないって
話したくないって言うなら
それならそれでいいんです」


「けど、そういうわけじゃないから」


ひさとさんは
私が泣いたり悲しんだり
気に病んだりするからって、口をつぐんでいるから


踏み込んでほしくない場所にまで
ずかずかと土足で踏み込んだりする真似なんてしない

したくない


だけど

そうじゃないなら聞かせて欲しいと思う



……大事な人の事をもっと知りたいって思う



「……知ることで、出来ることや助けになれることもあると思うから」


「いろはちゃんは……
ひさとの事、大事に思ってくれてるのね」


「……」


矢那さんの言葉に無言で頷くと

伸びてきた手に優しく頭を撫でられて

そっと矢那さんに顔を向ければ
矢那さんは穏やかに笑っていて



「…ひさとはね、母親に似てる
マイペースで表現がストレート」


ゆっくりと話し始める


「器用だから基本的に何をやらせても人並み以上に出来る。ただ本人は極度のめんどくさがり。
やりたいこと、やらなきゃいけない事以外は
進んでやらない」


「好きなことは絵を描くこと
嫌いなことは縛られること」


「好きな食べものは濃い味付けのもの
嫌いな食べものは特になし」


「ひさとが大事にしてるもの
母親からもらった画材道具
父親の形見のピアス」
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