ことほぎのきみへ
「見て分かる通り根っからのインドア
休みの日や空いてる時間は
絵を描くか、眠るか、ぼんやりするか」


「近くのあの海が気に入ってるみたいで
そこにはよく行ってる」


……
……


少しの沈黙のあと、矢那さんは苦い顔を浮かべた


「……いろはちゃんがひさとと出会った頃が
一番ひどかったのよ」


思い返すように目を伏せる


「ひさとへの勧誘
家まで押し掛けてきたり
無理矢理ひさとに絵を描かせようとしたり
あの手この手で、ひさとを引き込もうとした」


「…」


「ひさともかなり参ってて
頻繁に体調を崩してた」


「だから、あの頃
ひさとを一旦うちで保護したの」





……
…………だから……


……会いに行っても会えなかった?


あの頃、何度も海に会いに行った

顔を見たくて

お礼を言いたくて


でも、結局会うことは出来なかった

一度も

ひさとさんは
こんなに近くに住んでいたって言うのに



不思議だった



でも、ようやくその理由が分かった
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