ことほぎのきみへ
「ひさとが人嫌いになったのは、あの人達が原因」


「寄ってくるのがそういう人間ばかりだったから無意識に人を避けるようになった」


「あの頃と比べると今は大分落ち着いたけど
それでもひさとの才能に執着する人はいる
ひさとにひさとの母親の面影を重ねる人も」



「……。
…言葉が伝わらない人間ほど厄介なものはないわ」


怒りを通り越して呆れるような
うんざりするような
そんな口振りから

矢那さんも
何度もそういう場面に出くわしていたことや

実際に
その人達と会話をしたんだってことが読み取れる



「ひさとに言ったのよ
大学を辞めて、この家を、土地を離れて
別の場所で自由に生きていく
そういう選択肢もあるって」


今の環境から離れればいい


芸術、美術……


常にそれが傍にある場所にいることで

その巣窟にいることで

窮屈な思いを強いられるなら

強いられて

拒んでも尚、求められ続けるのなら


それで心や体をぼろぼろにするくらいなら

逃げてしまえばいい


投げ捨てて
切り捨てて


自由に



「でも、ひさとは「約束」を守りたいって
遺された「家」、そこにある「もの」を
守りたいからって首を横に振った」



……約束


『美大に進んだのは親との最後の「約束」だったから』



……あの時の言葉が頭に浮かぶ



「大切なのよ
ひさとにとって
かけがえのないふたりとした「約束」は
そのふたりとの「記憶」や「思い出」が
たくさん刻まれてるこの「家」は」
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