ことほぎのきみへ
大事な記憶
昔から他人の感情の変化に敏感だった


ささいな仕草や声のトーン、表情の動き、そういったものから


相手が何を望んでどうしてもらいたいのか
言われなくても分かった


小さい頃はそれで不便な思いをしたことはなかったし

むしろその察しの良さ勘の良さで周囲の人から持て囃された


嬉しかった


こんな簡単なことでこんなに喜んでくれるなら
笑ってくれるなら


私の言葉なんていくらでも
私で助けられることならなんでもと思った


だけど


段々成長するにつれて
たくさんの人や知識に触れていく中で


幼い頃よりも強い自我と自分の価値観というものが心の中で芽生え始めて


それまでなんの違和感もなく発していた
返していた言葉に、行動に


違和感を覚えるようになった


相手の求めるものを返すことが苦痛になっていった


でも、人に尽くすことが当たり前で
それが癖になってしまっていたから


自分の本心とは裏腹に
笑いたくないのに笑ったり
つい相手の表情を読んで動いてしまったり…


自分で自分の首を絞めるような生き方をしていた




それは今も
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