ことほぎのきみへ
「…」


悟先輩が乱暴に男を突き放すと

男は情けない悲鳴をあげながら
走ってその場から逃げ出した


……


静まり返っていたお店の中が
徐々にまた騒がしくなる

まるで何事もなかったかのように



……
……
……



……っ!



「ゆ、ゆうりっ」



あまりに一瞬の出来事で

間に入ることすらできず
ただ茫然と眺めていた私は

…というより、悟先輩の剣幕に圧されてしまって
一歩も動けなかった私は

我に返って慌ててゆうりの傍に駆け寄った



「大丈夫?なにもされてない?」

「……う、うん……」


小さく頷くゆうりにほっとする


「悟先輩
ゆうりの事助けてくれてありがとうございます」


ぺこりと頭を下げれば
返ってきたのはいつもの笑顔

纏う雰囲気もいつもの先輩のもの


「柳。波崎借りてっていいか?」

「え?……えっと…………」


ちらりとゆうりに視線を向ける

悟先輩の腕の中から
そっと逃げようとしていたゆうり

そんなゆうりを先輩は容易く掴まえて

にっこり笑う


「…」


ぎゅーっと逃げられないように拘束されて
ゆうりは真っ赤な顔で途方に暮れてる


「てか、わりぃ
勝手に借りてくわ」

「「え」」


私とゆうりの声が重なる


「さ、悟先輩……っ
待っ……!」

「待たねーよ。散々逃げられたからな
今度は逃がさねー」

「きゃっ」


悟先輩の腕の中でもがくゆうり

悟先輩は少し意地悪な表情を浮かべながら
ゆうりを軽々抱き上げて


「んじゃな。後よろしく、柳」


お姫さまだっこで
そのまま強引にゆうりを連れていってしまった
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