ことほぎのきみへ
「……ひさと、さん……」

「…顔、赤い。……熱ある?」


伸びてきた手が額に触れる

……ひんやりして気持ちいい


「熱いね。歩けそう?」

「…」

「無理そうだね」

「…」


ひさとさんが話してる間もずっと

熱で頭がぼんやりして、うまく声を返せなかった


………動いてないのにふらふらする



「いろは。もう一回触るけど、許してね」

「…………?………っ!」


そんな断りをいれてから
ひさとさんは私の膝下と背中に手をまわして

そのまま私を抱き上げた


「とりあえず家に連れてく
ちょうど矢那さんいるし」

「……あ、の……ひさとさ……」

「話さなくていいから
しゃべるのもしんどそう」

「…」

「行くよ」


そのまま歩き出すひさとさんをぼんやり見上げる


……。

……やっぱり…
ひさとさんの傍にいると安心する


久しぶりなその声、姿、体温に感じるのは安堵感


私が無条件に心を許せる相手


朦朧とする意識の中
私は何の抵抗もなく
そのままひさとさんに身を委ねた



……
……



「あら、起きた?」

「……矢那さん」


目が覚めた時、私は布団の中にいて
すぐ傍には矢那さんがいた


「………私……」

「動けなくなってたあなたを
ひさとが連れ帰ってきたの。覚えてる?」

「……はい」

「今日はここに泊まりね
明日、病院に行きましょう」

「……いえ……帰れます
病院も…いつもの事なので……」

「だめよ。そんなふらふらで帰れないでしょ」


起き上がった私を
矢那さんは再び布団に押し戻す
< 212 / 252 >

この作品をシェア

pagetop