ことほぎのきみへ
「いろは」


ぐいっと体を抱き起こされて


「…」


ひさとさんの腕の中に収まる



「落ち着いて」


「…………こわい…」


「俺はどこにも行かないから」


「……ひとりは……いや……」


「いろはをひとりにしないから」


「……」


「傍にいるから」


「……っ、ふ……っぅ、う」


取り乱す私に
落ち着いた声音で
何度も優しい言葉を返してくれるひさとさん

そんなひさとさんにすがりついて

ひたすら泣いた



……
……
……



「…………ご……ごめんなさい……」


しばらくして
ようやく、冷静さを取り戻した私は

これでもかってくらい
真っ赤な顔でひさとさんに頭を下げた



……恥ずかしい

穴があったら入りたい……


…………小さな子供みたいに怖がって、泣いて

熱でぼんやりしてたからって、色々口走って……


なんか……似たような事が前にもあった気がする…



「いいよ。それより具合は?」

「……少し、ふらふらするくらいです…
痛みはなくなりました」

「市販薬だけど飲まないよりはましだから
飲んで。今、おかゆあっためてくるから」


テーブルの上に薬と飲み物と一緒に置いてあった
小さな土鍋を持って、ひさとさんは立ち上がる


「……すぐ戻ってくるから」


一瞬、心配そうに動いた表情に

また恥ずかしさが込み上げる



『そばにいて』



~~~~っ!


…………ひさとさん
今、絶体あの言葉思い浮かべた……


………もうやだ………
…………記憶から抹消して欲しい。抹消したい。



布団に顔を押し付ける



「…」



…………きっと……子供だって、思われた……


ほんの少しだとしても
せっかく文化祭で私を意識してもらえたのに


……逆戻りだ
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