ことほぎのきみへ
たかが夢ひとつであんなに取り乱して


…………でも


あんな風にお母さんが夢に出てきたのなんて初めてだったから

懐かしい姿や声に

心と体が激しく反応して



無性に不安になった


今、傍にいるこの人も
消えちゃうんじゃないかって

置いていかれるんじゃないかって



「……やだな……弱ってる時って」


考えが悪い方にばかりいって
嫌な想像ばかりして
怖くて仕方なくなって…

そういう感情を抑えられなくなる


冷静になれない



「…」

「お待たせ」


うつ向いてため息をついていると
ひさとさんが戻ってきて


「はい。少しで良いから食べて」


折りたたみの小さなテーブルを取り出して
その上に土鍋を置いた


「……いただきます」


正直、食欲はなかったけど
薬を飲まなきゃいけない雰囲気だったから
無理矢理おかゆを胃の中に放り込んだ


それから薬を飲んで、また布団に横になる




「…ひさとさん」

「ん?」

「あの、もう大丈夫なので
部屋で休んでください」


さっき時計を確認したら
もう日付が変わっていた

多分、ひさとさんは矢那さんと交代で
私の様子を見に来てくれてたんだと思う

だけど
付きっきりで看てもらうほど
私の症状は重くない

寝て休めば自然に回復する


「ううん。ここにいる
眠くなったら
その辺で勝手に寝るから気にしないで」


「いろはのそばにいるよ」



……。



『そばにいるから』



……さっきの言葉を守ろうとしてくれる



あんな、取り乱した状態で言った言葉を
ひさとさんは流さないで
ちゃんと拾い上げてくれてしまう




「……本当に…いつもごめんなさい」

「いろはは俺に謝ってばっかりだね」
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