ことほぎのきみへ
……
……


夜の水族館は自分が思っていた何倍も


静かで綺麗で



幻想的だった



館内はほとんど照明を落としてて
水槽内の明かりがあたりをぼんやり照らしてる

通路の至るところにキャンドルが置かれてて

だから
薄暗くはあるけど歩く分には全然問題ない



「静かでいいね」

「はい」


海の中にいるような青く光る水槽トンネルの中

ひさとさんはまわりを見渡して呟いた


私達の他にも人はいるけど
昼間より圧倒的に少ない

小さな子連れの人も騒がしい子供もいないし
ゆっくり落ち着いて見れるから
ひさとさんも居心地がいいだろう



「この先みたいだね。クラゲのコーナー」


館内マップを見て、ひさとさんが言う




『この先クラゲコーナー』


入口にそんな手書きのポップ
可愛らしいクラゲのイラスト付き


中に入れば
大中小、形も様々な水槽がたくさん並んでいて



入口のすぐ傍には大きな水槽


ゆっくり近付いてじっと見つめる


七色に変わる水中を
ふわふわゆらゆら漂うクラゲ



「…」



……記憶の中の情景と重なって、惹き込まれる




「……これ、です」

「いろはが昔ずっと見てたってクラゲ?」

「…はい
『ミズクラゲ』って種類なんだ…」



答えながらも
水槽の中のクラゲに目が釘付けになる



「…うん。これは確かに綺麗」


ひさとさんも気に入ったようで
そう呟いたきり、黙りこんで
私と同じようにじっと水槽のクラゲを眺める



ふわふわ

ゆらゆら



浮いたり、沈んだり



水中を漂う



たったそれだけ



なのにどうしてこんなに癒されるんだろう





目の前を悠々と漂う透明なクラゲ


次々、色んな色に染まっていった
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