ことほぎのきみへ
閉館時間が迫る中


最後にもう一度
クラゲのコーナーに戻って

さっきは立ちっぱなしで見入ってしまったけど

今度は
水槽の近くに設置されてた椅子に座って
ひさとさんとふたりでゆったりとクラゲを眺めた



「「…」」



お互い無言

だけど全然気まずくなくて

むしろこの沈黙が心地良かった



ふわふわ

ゆらゆら


ひるがえって


舞うように漂うクラゲ



……ずっと見ていられるくらい綺麗で


成長した今でもあの頃と同じように
そう思えることが嬉しかった


お母さんや………おばあちゃん
皆と過ごした懐かしい記憶

あの頃の思い出を


それを今も変わらず綺麗だと思えることが


痛みや悲しみ、寂しさで
塗り潰されてなかったことが


すごく嬉しかった




なにより




自分が好きだと思えるものを

綺麗だって感じるものを


隣にいるこの人も同じように思ってくれてる


その感情を共有し合える「今」が



とても



とても幸せだった
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