ことほぎのきみへ
夢のように幸せな時間は瞬く間に過ぎた



「……っ」



水族館の外に出た瞬間

肌を刺す冷たい空気に
ぼんやりしていた意識が引き戻された



「……積もってますね」

「うん」



来た時はふわふわ舞ってる程度だったのに

今はあたり一面、雪で真っ白


白銀の世界が広がっていた



「雪、止んでる時で良かったね」

「そうですね」


これだけ積もってるってことは
水族館の中にいる間
かなり雪が降っていたんだろう

傘とか持ってきてなかったし助かった



「帰ろうか」

「はい」



真っ白な道を歩く

足を動かす度にさくさくと音が鳴る


雪のせいか、外には車も人の姿もなくて
静寂が広がっていたから余計に音が耳に響く



……凍ってるかもしれないから気を付けて歩かないと



「……っ、……!」



思った矢先

つるりと足が滑って前のめりになる



「っと…
大丈夫?いろは」


「ご、ごめんなさい……
ありがとうございます」



転びかけた私をひさとさんが抱き止めて



「「……」」



一瞬、見つめあったまま固まる


ぱっと離れたひさとさん

気恥ずかしくなって俯いた私



……



ほんの少し沈黙が流れて



「……そうだ。いろは」

「は、はい」

「あげる」

「え?」


ひさとさんが私に何かを差し出した

顔をあげてよく見れば
目の前には可愛くラッピングされた袋


「プレゼント。一応、クリスマスだから」

「……私に?」

「うん」

「……」


差し出された袋を受け取る



「……開けていいですか?」

「うん。気に入らなかったらごめん」
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