ことほぎのきみへ
あの事故から1年半




「矢那さん」

「なぁに?」

「私、今日でここに来るの止めます」



笑って告げれば
隣で一緒にお昼ごはんの片付けをしてくれていた
矢那さんの動きがぴたりと止まって


一瞬、驚いたように瞳が開く



「……理由を聞いてもいいかしら?」


「ひさとさんのリハビリも無事に終わったので
……絵も、前と変わらず同じように描けてるって
痛みも感じてないって、ようやく確信出来たから」




『そんな顔しないで。本当に痛み、ないから』


『たまにひきつるような感覚はあるけど
絵も普通に描けるから』




最初の頃は
ひさとさんのその言葉を疑ってしまって


本当は痛いんじゃないかって

私の前では我慢してるんじゃないかって


ずっと不安だった


だけど、最近ようやく
ひさとさんのその言葉が本当だって

ずっと様子を見ていて、そう思えるようになった




「なら、いいじゃない
何もかも元通りなんだから」



「そもそも
あの事故や、ひさとの怪我は
いろはちゃんのせいじゃないのよ
あなたが責任や罪悪感を感じることはないの」



「ひさとも言ってたでしょ?」




「はい。でも、」



拭きかけのお皿をそっと下ろして

そのまま、うつ向く




「……怖いだけなんです。私が」



「お母さんを亡くした時のように
今回も何もできずに
ただ泣くことしかできなかった」



「また、同じことが起きたらって思うと
それで、今度こそひさとさんが命を落としたらって思うと」



「……一緒にいるのが、怖い」
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