ことほぎのきみへ
「俺の名前、漢字でこう書くんだ」



そう言って
ひさとさんはスケッチブックに文字を書く



【寿人】



……珍しい漢字の組み合わせ

じっとそれを眺める私にひさとさんは笑う



「【寿】(じゅ)って文字が入ってるでしょ?
これ、ことほぐって読むらしいんだけどね」



……ことほぐ……



「意味は言葉で祝福すること
祝いの言葉で幸運を祈ること」



「俺の親が
俺が誰かの幸せを心から祈れるような
その言葉で誰かを幸せに導けるような
優しい人間になって欲しいってつけてくれた名前なんだって」



「俺は名前負けだなって思ってた
そんな立派な人間になんてなれやしないって思ってた」



「けど」



「再会したあの時に
きみが、俺の言葉に救われたって言ってくれた時」



「……嬉しいって思った
あの人達がくれた名前に恥じない人間に
少しは近づけた気がして」




「誰かを「ことほぐ」ことの出来る人間になれたなら」



「その人生を少しでも幸せなものにできたなら」



「俺の言葉で
その先の未来に幸福を与えることができたなら 」



「それはすごく、嬉しい事だって思うんだ」




穏やかに優しく笑って話す【寿人】さん




きっと、この先も何度だって



私はこの人の言葉に救われて


優しさに包まれて



最後まで、たくさん幸せを貰うだろう





誰かを【ことほぐ】【ひと】



幸せを与える人




「ぴったりな名前です」





繋いだ手をぎゅっと握って、笑いかければ




「……」




同じ分だけ握り返して




寿人さんは子供みたいに嬉しそうに笑った
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