ことほぎのきみへ
「…その……」






……言葉が思い付かない。うまく声が出せない


「…」


…………さぁっと青ざめる


どうしよう
私、絶対変な人だ……


追いかけ回すように後を追って
声をかけておいて無言でその場に立ち尽くすって

怖い…ストーカーっぽい……


…………挙動不審すぎる……







「旅行か何か?」

「へ……?」

「昨日の友達と祭りに来たの?」

「……は、はい」


どう見ても不審者な私を
怖がりも気持ち悪がりもせず、あの人は自分から声をかけてくれた

ゆっくり石階段を上りながら


「賑やかでしょ?ここの祭り
そろそろ花火があがる時間なんだ」

「…花火」

「そう。壮観だよ
その花火目当てでくる人もいるくらいだから」


親しい相手と世間話でもするように
話しかけてくる


あの時と同じように


「後ね。ここの裏参道の入口周辺穴場なんだ。
蛍がたくさん飛んでる」

「…………蛍、見たことないです」

「そうなの?」
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