ことほぎのきみへ
「心配かけてごめんね
でも大丈夫だから」



「おーい。そろそろ行くぞー」


開けっ放しのドアの向こうから
タイミング良く悟先輩の声が響く



「ほら。行こう?
今日で最後なんだから」



立ち上がった私はいつも通りに見えたのか
3人は安心したような顔で頷いて
先に部屋を出ていった




…けど、私の頭の中ではまだ昨日の夜の出来事が繰り返しそのスクリーンに映し出されていた










『どう、して……?』


すごく驚いた顔をしていたと思う

そんな私を見て、あの人は『あたり?』と声を返した


『いや、やっぱりどこかで見たような気がして
…昔、同じように海で会った女の子がいたから』


どうやらあの後、あの人はずっと
どこか見覚えのある私の事が頭に引っ掛かっていたようで


昔の記憶を引き出して
その中から今の私とあの頃の私を照らし合わせたみたいだった


『気にはなってたんだ。ずっと
ふとした瞬間に思い出すその女の子のこと』


『きみがあの女の子って気づくのに少し時間がかかったけど……』


不意に伸びてきた手が私の頬に触れ
ぴくりと体が反応する


『……うん。やっぱり面影ある』

『…』

『あ、ごめん。気安く触って』

『いえ……』


……離れていくその手を
名残惜しいと感じたのはどうしてなんだろう
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