ことほぎのきみへ
今回も、喧嘩の原因になった会えない理由が

もうすぐ誕生日の彼女の
プレゼント資金調達のため

バイトの時間を増やしたからだ



「…」

「サプライズしたい気持ちも分かるけど
彼女はプレゼントより一樹と一緒にいたいんじゃない?」





「……………帰り、迎えに行ってくる」


数分の沈黙の後

深くため息をついて
がしがしと頭を掻きながら一樹は頷いた



「そうだよ~
私の彼氏は会いたいって言ったらすぐ飛んできてくれるもん」

「まなぶ先輩は亜季にベタぼれだからね」

「ふふん。うらやましかろう~」


亜季は誇らしげに胸を張る

そんな亜季をじとりと睨み付けゆうりは
私を抱き締めた



「いいもん。私にはいろはがいるもん!」

「わかんないよ~?いろちゃんその内彼氏作っちゃうかもよ~??」

「そ、そんなことない!」

「いや、お前が断言すんなよ。ゆうり」



「てか、実際どうなんだ?いろは
好きなやつとか気になってるやついんのか?
あんま、そーゆー話聞かねぇけど」


一樹の質問に3人の視線が一気に自分に集中する



「…好きな…」


好きな人はいない

作ろうとも思わない


自分には守りたいものがある
なによりも優先したいものがある


今は大切な家族のために生きていたい



「いないかな」

「え~?いろちゃん、可愛いから絶体もてるのに~」

「駄目!いろはは私の!」

「いや、お前はさっさと男つくって
いろは離れしろ」

「出来たら苦労しないっての!」

「お前も顔は悪くねぇのにな
……性格か…」

「…聞こえてんだけど?殴るよ?」



3人の賑やかな声が遠くに聞こえる


…一樹の質問で

頭の中にかすかに浮かんだ人の姿に
意識を奪われていた


好きな人はいない


……ただ、


もう一度、会いたい人はいる



………会うことなんて、もう2度とないだろうけど
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