ことほぎのきみへ
「じゃあ、行ってきます」

「……行ってきます」


「行ってらっしゃい」


優はまだ少しむくれ顔の花菜の手をとって
先に車へ向かったお父さんのところへ向かった







「…」


車のエンジン音が遠ざかっていく


音が完全に聞こえなくなってから
深くため息をついた



……1週間ひとりか


しん、と静まりかえる家の中を玄関先から振り返る


毎年の事だけどこの静けさには慣れない


いつもは優や花菜の賑やかな声や
騒がしい生活音で満たされているから



まだ1日も経ってないのに

もう花菜達が恋しくなる



「……さてと」



気を紛らわすため
わざと後回しにしていた家事に取りかかることにした







「…………終わっちゃった……」



最後に部屋の掃除

掃除機を片付け終え
やることがすべて終わってしまった私は


気が抜けたように呟いて
その場に立ち尽くしてしまう



しばらくの間ひとりだから
その分、家事も減る


ごはんも自分が食べる分だけ作ればいいから
簡単なもので済むし

洗濯も買い物も
急いでやる必要も行く必要もない


だから普段より時間が余る



その時間を学校の課題にあてようかと思ったけど

早目早目に手をつけていたから

もう全部片付いてしまっていた事に気付く
< 71 / 252 >

この作品をシェア

pagetop