ことほぎのきみへ





『……なんで、助けてくれなかったの……』



暗闇の中

責める声がどこまでもこだまする


自分の小さくなった手足を見下ろして
そっと目を伏せる



『ねぇ……どうして?』





これは夢


……毎年、夢を見る


あの時の夢


私はあの頃の幼い私の姿で

ひたすら黙ってその声を受け入れる



『…返して』


『返してよ』



ごめんなさいなんて言えない

許してなんて言えない



謝って許されることじゃない

許して欲しいなんてこの人には絶対言えない




『……私の娘を返して……っ!』



あの時のあの人の声が、顔が、


忘れられない


泣き崩れる姿、慟哭に沈むその姿が
今でもずっと私の中にある


とめどなく溢れる涙
痛みや苦しみ悲しみが混ざった声


私への増悪に満ちた目



……痛い




痛い




伝染するように広がっていく痛み


心の奥へ奥へと染み込んでいく感情
しゃがみこんて胸を押さえる


そんなの関係なしに痛い言葉は降り続けてくる



一際大きく聞こえたその言葉に




『…あなたが死ねば良かったのに…』




…………心が、押し潰された
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